人の文章を勝手に添削するブログ

「世の中に蔓延る悪文を退治したい」。そんな思いで書籍やウェブ上の文章を勝手に読みやすく添削します

勝手に添削:『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』 (4)

4回目の添削・校正。今回でようやく序章の添削が終わる。

 

序章 人類の出現・文明の誕生

最適ではない土地」だからこそ文明が発達

 地球の温暖化は特に中緯度地域に大きな影響を与えました。中緯度では蒸発量が降水量を上回り、次第に乾燥を始めます。こうした乾燥地では生活や農耕に必要な水を大河に求め、大河のほとりに人々が密集します。

 決して農業に適しているわけではない乾燥した土地だからこそ、水を求めて大河流域に人口が密集し、都市が生まれ、多くの人口を養うための畑づくりや水路づくりの技術が結集されました。こうして、メソポタミア黄河流域など、乾燥地を中心に世界最古の文明が生まれていきました。

 また、乾燥地以外にも、土地が狭く、交易の拠点が特定の場所に集中し、人口が密集したエーゲ海周辺や、人口を支える力が大きな米やトウモロコシをつくっていた長江流域やメキシコなどの地域にも文明が誕生しました。農耕や牧畜などによって人口が増加して都市が誕生すると、そこに富や技術が集中し、文字や金属器などが生み出されます。

山崎 圭一. 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた (Kindle の位置No.495-503). SBクリエイティブ株式会社. Kindle 版. 

 少し長いが「『最適ではない土地』だからこそ文明が発達」の項目を丸々引用する。細かい点から重大な問題まで添削してみる。

第1段落

 ここは重大な問題はないが、「次第に乾燥を始めます」→「次第に乾燥し始めます」の方がよい。「乾燥を始める」とは普通言わないからだ。また「水を大河に求め、大河のほとりに人々が密集します」は、「大河」が重複するので読点の前の方を省略する。

地球の温暖化は特に中緯度地域に大きな影響を与えました。中緯度では蒸発量が降水量を上回り、次第に乾燥し始めます。こうした乾燥地では生活や農耕に必要な水を求め、大河のほとりに人々が密集します。

第2段落

 最初に気になるのが冒頭の「決して農業に適しているわけではない乾燥した土地だからこそ」という表現。まず「乾燥した土地」は前段落と表記を揃え「乾燥地」とした方がよい。特段理由がないなら、同じ用語は文章全体で表記を揃えた方がいい。表記がコロコロと変わると読み手にとってストレスになるからだ。文字数が減るという副次的な効果もある。

 また、「決して農業に適しているわけではない乾燥した土地だからこそ、水を求めて大河流域に人口が密集し、」と下線部のようにかなり強調した表現になっているが、乾燥地で大河に人が集まるのは至極当然のことなので、ことさらに強調する意味が分からない。ここは単に「農業に適さない乾燥地では…」で十分ではないか。

 と、ここまで書いたところで、そもそもこの部分は前段落と全く同じ内容だということに気付いた。したがって、「決して~人口が密集し」の部分は丸ごと削った方がよい。こういった文章の重複は、編集の段階で解消しておくべきだ。

 次に「多くの人口を養うための畑づくりや水路づくりの技術が結集されました」について。まず修飾語が長いので「多くの人口を養うため」とした方がよい。それから、「技術が結集されました」という表現はおかしい。受動態をやめて「技術が結集しました」とすべき。ただし、「結集」と格好つけた表現を使う必要も見当たらないので、単に「技術が集まりました」でよい。と思ったが、技術が「結集した」「集まった」は意味が成立していない気がするので、「技術が発達した」の方がよさそう。

 まとめると以下のような修正案になる。

やがて大河流域では都市が生まれ、多くの人口を養うために畑づくりや水路づくりの技術が発達します。こうして、メソポタミア黄河流域など、乾燥地を中心に世界最古の文明が生まれていきました。

第3段落

 まず一文目がとにかく長いので、2文、3文に分ける必要がある。

 次に「人口を支える力が大きな米やトウモロコシ」という表現は良くない。まず「大きな」は執筆者の驚きのようなものが含まれる主観的な表現で、使い方によっては幼稚な印象も与える。ここは客観的かつ硬い文章なので「大きい」の方がよい。ただ、そもそも「人口を支える力が大きい」は抽象的で意味が分かりにくい。おそらく「単位面積あたりの収穫量/カロリー量が大きい」という意味であり、要するに「狭い面積でもたくさん収穫できる」のだと思う。こうした専門用語(?)は一般的な表現に置き換えるべきだ。

 最後の「…長江流域やメキシコなどの地域にも文明が誕生しました。農耕や牧畜などによって人口が増加して都市が誕生すると、そこに富や技術が集中し、文字や金属器などが生み出されます」は色々な問題を抱えている。前段落では「人口が密集し、都市が生まれ、技術が集まり、文明が生まれていった」と書いてあったが、ここでは「文明が生まれ、人口が増加し、都市が生まれ、技術が生み出される」と論理展開が矛盾してしまっている。詳細は分からないが、おそらく前段落の論理展開が正しいのではないか? そもそも、この内容も前段落とほぼ同じことを書いているので、やはり削った方がよい。

そもそも見出しと内容が不一致では?

 「『最適ではない土地』だからこそ文明が発達」が見出しだが、そもそも内容と一致していないのではないか?

 乾燥地が農耕に「最適ではない土地」は確かにそうだと思うが、大河流域は水が豊富あるうえに森林などもなく、農耕に「最適な土地」と言えるのではないだろうか。普通に考えて、農耕に適した土地だからこそ作物がたくさん収穫でき、多くの人口を養え、文明が発達するはずだ。

 またエーゲ海周辺は「土地が狭く、交易の拠点が特定の場所に集中し、人口が密集した」と書いてある。著者としては「交易に最適でない土地」と言いたいのだろうが、やはり最適でない場所に人は集まらないはずだ。

 こうした逆説的な表現は目を引くという点では効果的だが、内容と一致していない場合は、不誠実としかいえない。

まとめ

 第1段落、第2段落は大きな修正は必要ないが、構成を変えた。第3段落は補足のような位置付けに変更した。見出しも「乾燥地を中心に文明が発達」と内容に即した「誠実」なものに変えた。

乾燥地を中心に文明が発達

 地球の温暖化は特に中緯度地域に大きな影響を与えました。

 中緯度では蒸発量が降水量を上回り、次第に乾燥し始めます。こうした乾燥地では生活や農耕に必要な水を求め、大河のほとりに人々が密集します。やがて大河流域では都市が生まれ、多くの人口を養うために畑づくりや水路づくりの技術が発達します。こうして、メソポタミア黄河流域など、乾燥地を中心に文字や金属器が発明され、世界最古の文明が生まれていきました。

 また乾燥地のほかに、米やトウモロコシなど生産性の高い作物を栽培していた長江流域やメキシコなどの地域にも文明が誕生しました。エーゲ海周辺も、土地が狭いために交易の拠点が特定の場所に集中し、人々が密集して文明が形成されていきます。

 

* * *

 これで序章は完了した。修正案の完成度が100%とは決して思っていないが、元の文章よりはだいぶマシになったと感じている。より良い修正案があればぜひコメントしていただけるとありがたい。

 さて、序章だけでこれだけ修正があったが、この本は全10章もある。全部を添削するのは中々骨があるので、飽きたところで止めにする。(もしかすると今回で終わりにするかもしれない…)