人の文章を勝手に添削するブログ

「世の中に蔓延る悪文を退治したい」。そんな思いで書籍やウェブ上の文章を勝手に読みやすく添削します

勝手に添削:『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』 (3)

3回目の添削・校正。序章だけでも修正点が山盛りだ。

 

序章 人類の出現・文明の誕生

道具も変化します。従来の狩猟・採集に適した、肉を切り裂いたり、ものを切断したりするための打製石器の進化に加え、穀物をすり潰して粉にする道具や、耕作に使う鍬の刃先をつくり出すため、石をすり合わせて平たくする磨製石器も登場するなど、まさに農耕に適した“新”石器の時代が始まったのです。

山崎 圭一. 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた (Kindle の位置No.490-493). SBクリエイティブ株式会社. Kindle 版. 

 これは著者の癖のようだが、とにかく「1文が長い」。複数の要素が1文に詰め込まれてしまっているうえに、修飾語が長いので非常に読みにくい。

 まず修飾語を簡略化してみる。「道具も変化します。○○な打製石器の進化に加え、○○する道具や、○○する磨製石器も登場するなど、新石器の時代が始まったのです」。こうして眺めてみると、文の構造が破綻していることに気づく。

 第一に破綻しているのは、「~に加え」の使い方である。「~に加え」を使う場合、普通は「名詞+名詞」「(動詞+こと)+(動詞+こと)」と並列の仕方を揃える。例えば「課長に加え部長もミスを見落としていた」「技術の研究に加え応用に取り組んでいる」「技術を研究することに加え、応用することにも取り組む」といった具合である。これを「技術の研究に加え応用することにも取り組んでいる」とすると違和感が生じる(原因としては「技術応用することに取り組む」が日本語として成立しない、ということが考えられる)。

 ここで改めて引用部分を見てみると、「○○な打製石器の進化に加え…○○する磨製石器も登場するなど」と一致していないので、修正する必要がある。単純に直すのであれば「打製石器が進化したことに加え」とすればよいが、そもそも1文が長いので2文に分けた方がよい。

 第二に、これは個人的な意見かもしれないが、最後の「磨製石器も登場するなど、まさに農耕に適した“新”石器の時代が始まったのです」の「など」の使い方が気になる。うまく言語化できないが、「など」の前後がきれいに繋がっていないように感じる。例えば「筋トレに加えランニングにも取り組むなど、この夏休みはダイエットを頑張りました」という文では、前半部分ではダイエットの例を「など」で取り上げているので自然に読める。

 対して引用部分では、「まさに農耕に適した“新”石器の時代が始まった」の例として「打製石器の進化」や「磨製石器の登場」がある、といった書きぶりになっている。しかし、これらは「例」と言えるのだろうか? 例というよりは「言い換え」「強調」のように読めてしまうのが、違和感の原因かもしれない。結局ここも「など」を使って無理やりつなげるのでなく、文を分けてしまえば解決する。

 最後に、この文をよく読むと、論理が破綻している箇所や、必要な情報が足りていない箇所がある。

  • 打製石器の進化」とあるが、従来の狩猟・採集に適したものからどう変化したのか? 「農耕に適したもの」とは分かるが、具体的にどう変化したのか書かれていない。
  • 打製石器は「肉を切り裂いたり、ものを切断したりする」とあるが、「肉を切り裂く」は「ものを切断する」の部分集合ではないか(≒同じことを言っている)? この文脈では、「狩猟・採集に適した」の例として、たとえば「肉を切り裂いたり、果実を枝から切り離したり」などとするべきではないか。
  • 「耕作に使う鍬の刃先をつくり出すため、石をすり合わせて平たくする磨製石器」とあるが、この「鍬」自体がそもそも新しい道具ではないのか? 鍬が先にあったわけではなく、磨製石器が開発されたからこそ、鍬が誕生したはずである。あと「石をすり合わせて平たくする磨製石器」という書き方だと、「磨製石器は石をすり合わせて平たくするための道具だ」と読めてしまう。

 まとめると、この引用部分は文を分ければ読みやすくなる。ただ、必要な情報が足りていないので書き足す必要がある。

道具も変化します。従来の打製石器は、肉を切り裂いたり果実を枝から切り離したりと、狩猟・採集に適した形をしていましたが、これが○○に進化しました。また、穀物をすり潰して粉にする道具に加え、石をすり合わせて平たく加工した磨製石器も登場します。この磨製石器によって、鍬をはじめとする耕作用の道具もつくれるようになりました。まさに農耕に適した“新”石器の時代が始まったのです。

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 今回はかなりの曲者だったのでこれで終わりにする。少し疲れた…。