人の文章を勝手に添削するブログ

「世の中に蔓延る悪文を退治したい」。そんな思いで書籍やウェブ上の文章を勝手に読みやすく添削します

勝手に添削:『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』 (2)

前回に引き続き以下の書籍を添削・校正していく。

 

序章 人類の出現・文明の誕生

約240万年前になると、原人が登場します。原人は石器をさらに鋭利にして用途を拡大したり、洞穴に暮らしたりするなど、周囲の環境への適応力が急激に増したことで、アフリカ以外の世界の各地に広がりました

山崎 圭一. 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた (Kindle の位置No.451-453). SBクリエイティブ株式会社. Kindle 版. 

 2文目の「原人は石器を~」は「原人はAしたりBしたりなど、Cしたことで、Dしました」という構造だが、一文が長いせいで読みにくい。2文に分けるべきだ。またA、BとCの関係性が読みにくい。石器の用途が拡大した結果として環境への適応力が増したのか、適応力が増した例として用途の拡大があるのか。考えてみたものの、文脈からは一意に決まらない。前者のような気がするが、この文からは一意に決まらない。この一意に決める作業を読者に求めるのは悪文であり、そもそも一意にしか読めないように文章を書くことが大事だと思う。

 「洞穴に暮らす」と「環境への適応力が増す」の論理関係も分かりにくい。推測だが、洞穴では雨風をしのぐことができ、気温も安定しているので、アフリカより寒冷な地域でも洞穴を利用して生活できる、ということなのだと思われる(これを「適応力が増す」と言えるのか?という疑問は残る)。この辺りの論理をきちんと書かずボヤっとごまかすのは好きではない。

 「適応力」という専門用語も説明なしに使うのは良くないので外した。「環境への適応力が急激に増した」の部分は、何と比べて“増した”のかが分かりにくい(ここは前に登場した「猿人」と比べてだろう)。「アフリカ以外の世界の各地に」も冗長なうえに、「アフリカを出て世界各地に」の方が正確だ。

 細かい表記も修正して以下のようにしてみた。

約240万年前になると原人が登場します。打製石器を削ってさまざまな用途に加工したほか、雨風をしのげる洞穴に暮らすようになり、原人は猿人よりも過酷な環境で生きることができるようになりました。その結果、原人はアフリカを出て世界各地に広がりました。

* * *

 次にこの部分。

ネアンデルタール人の遺跡では、骨の化石の周囲に花粉の化石が発見されていることから、死者を花で囲んで埋葬したという「死者をいたむ精神文化」があったことがわかります。

山崎 圭一. 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた (Kindle の位置No.460-462). SBクリエイティブ株式会社. Kindle 版. 

 やはりここも一文が長い。著者は一文に色々な要素を詰め込む癖があるようだ。それできれいにまとまっているのなら良いのだが、文の構造が破綻していることが多々あるので、格好つけずに2文に分けた方が間違いなく良い。

 この文で一番気になるのは「死者を花で囲んで埋葬したという「死者をいたむ精神文化」があった」の部分。「という」の使い方に強い違和感を覚える。「埋葬した」と過去形にしていることが原因のようだ。もしくは、「という」をやめて「つまり」「すなわち」といった接続詞に変えてもいいかもしれない。花粉が見つかった→花を囲んで埋葬していた→死者を悼む精神文化があった、と3ステップの論理展開があるからだ。

 つまりは以下のようにするのはどうか。

ネアンデルタール人の遺跡では、骨の化石の周囲に花粉の化石が発見されています。このことから、死者を花で囲んで埋葬していた、つまり「死者をいたむ精神文化」を持っていたとわかります。

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 上の引用部分に続く一文も、短いがなかなか厄介だ。

道具も進化し、石の固まりからカッターナイフのような薄い打製石器を次々と割り出す技法を発達させました。

山崎 圭一. 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた (Kindle の位置No.463-464). SBクリエイティブ株式会社. Kindle 版. 

 厄介なのは「道具」の扱い。後半の「カッターナイフのような薄い打製石器」が「道具」のことなのか。それとも、「ある道具X」(ハンマーのようなもの?)を利用して薄い打製石器を割り出しているのか。60%くらいの確率で前者だと思うが、非常に分かりにくい。原因は「道具も進化し、~な技法を発達させた」という文構造にあると思う。「~し、」は2文を並列に繋げる役割を持つが、「道具が進化したことにより、技法が発達した」とも読めてしまう。

 修正案は2パターン考えてみた。

石の固まりからカッターナイフのような薄い打製石器を次々と割り出す技法も発達し、さまざまな道具が作られました。

石器を加工する道具も進化し、石の固まりからカッターナイフのような薄い打製石器を次々と割り出せるようになりました。

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 読みやすい文章は、一通りにしか意味を取れない。いちいち立ち止まって「この文はどっちの意味だろう」と考える必要がなく、スラスラと読み進められる。反対に、今回登場したような一意に決まらない文は「悪文」だと私は思う。

 「何となく意味は分かるから別にいいのでは」といった意見もあるかもしれない。確かにその通りかもしれない。だが私としては、読みやすい文章を書くことを放棄し、読者に悪文を読解させること、すなわち書き手としての“誠意”が欠けていることが気に入らない。また、悪文は誤った解釈にも繋がりかねない。

 本書にはまだまだ悪文が登場しそうなので、今後も添削を続けていく。